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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)12331号 判決 1967年7月12日

原告 有限会社新名プラスチツク

被告 第一化成工業株式会社 外一名

主文

被告らは各自原告に対し金七〇二、八一〇円及びこれに対し昭和四一年一二月二七日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は各被告に対し金二〇〇、〇〇〇円宛の担保を供すれば、仮に執行できる。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決と仮執行の宣言、予備的に「被告ら間の昭和三九年一二月二〇日頃の成型機六台の譲渡契約はこれを取消す。被告第一化成工業株式会社は右物件を原告に対し引渡せ。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、被告らはいずれも合成樹脂成型加工製造販売等を業とする会社である。

二、原告は(旧商号有限会社丸新プラスチツク)被告第一化成株式会社(以下第一化成という)に対しプラスチツクの原材料を昭和三九年四月初めより同年一〇月末頃迄に合計五九五、〇八五円相当額分を売渡した。

三、原告は被告第一化成に対し営業資金として昭和三九年一二月一〇日頃二〇〇、〇〇〇円を弁済期翌四〇年四月二八日と定め貸与した。

四、被告第一化成が昭和三九年一二月一一日不渡手形を出して倒産するや、訴外林行夫と同林庸夫の兄弟は通謀の上、インサート工業株式会社の株式の大部分を買収して、同年一二月二〇日頃兄の行夫が代表取締役、弟の庸夫が取締役に就任し、これに被告第一化成の営業用資産全部を譲渡し且つ得意先の紹介引継を行い、同日頃その本店を肩書地に移転し、営業目的を合成樹脂成型加工製造販売、一般金属加工及びその付帯業務と変更し、翌四〇年一月一二日に商号を第一化成工業株式会社(以下第一化成工業という)と変更し、その旨翌一三日に登記し現在に至つている。

五、右旧称インサート工業株式会社である被告第一化成工業の本店所在地は被告第一化成の従前からの本店所在地であり且つ工場所在地であつて、被告第一化成の現在の本店所在地は被告第一化成工業の代表者林行夫の住所であつたこと、被告らの営業目的もほとんど同一であり、商号も単に「工業」の二字が入るか否かという酷似した商号を用いていることにより、商号続用による営業の譲渡と解すべきであるから商法第二六条により被告第一化成工業は相被告第一化成の営業上の債務を原告に支払う義務がある。

六、よつて被告らに対し前記売掛代金のうち五〇二、八一〇円及び貸金とこれに対する訴状送達の翌日である昭和四一年一二月二七日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

七、仮にそうでないとしても、右営業譲渡は詐害行為である。

即ち前記のように原告は被告第一化成に対して債権を有していたのに同被告は昭和三九年一二月一一日不渡手形を出しながら 原告やその他の債権者からの追及を逸れる目的で兄の行夫が代表者となることになつた被告第一化成工業に対し、その営業全部(得意先及び成型機六台外器具、什器、備品類一切)を同月二〇日頃譲渡したものである。

よつて原告は被告らの間の右成型機の譲渡行為を取消し、被告第一化成工業に対しこれが引渡しを求めると述べた。

被告らはいずれも適式の呼出をうけながら本件口頭弁論期日に出頭せず且つ答弁書その他準備書面を提出しないから、民事訴訟法第一四〇条三項により原告主張事実を自白したものとみなす。

理由

商法第二六条一項の「商号の続用」とは営業譲受人が営業譲渡人の商号と全く同一の商号を使用する場合は勿論従前の商号の前後になんらかの字句を附加しても、取引の社会通念上従前の商号を継続した場合に当ると判断される場合(単に類似の商号を使用した場合は除く)を含むと解するのが相当である。そしてこの判断は主に使用された商号の字句から判断されるであろうが、譲渡人と譲受人の営業主体の人的構成上の関連性や、営業目的、得意先に対する通知、その引継の有無、営業譲渡の動機等諸般の状況をも斟酌されてよいであろう。なんとなれば、同条の趣旨は、従前の営業上の債権者の外観に対する信頼を保護するにあるとされているが、このことは、所詮、譲受人による債務の引受があつたものと考えるのは無理からぬとする事情がある場合に債権者を保護するものであるから、右の事情の判断に、前記のような事実を勘案することは、なんら差支えないと解されるからである。従つてこのような見地に立つて当事者間に争いがないとして取扱われる事実(請求原因第四、五項)から判断すると、被告第一化成株式会社と同第一化成工業株式会社とは、その間に単に「類似商号」の域を越えて「商号の続用」があると認めてよいであろう。

ところで、本件の場合は、その間にインサート工業株式会社なる商号が介在しているので、右の論法をそのままあてはめることは妥当でないかの如くであるが、前記事実に徴すると、被告らは当初から続用商号を使用する意図のもとに、直接第一化成工業株式会社の設立に代えてインサート工業株式会社をトンネル的に利用したに過ぎないと推認されるから、これをもつて、前記債務の適用を免れようとすることは許されないと解すべきである。

そうだとすると営業譲受人である被告第一化成工業は、その譲渡人である被告第一化成の営業によりて生じたる債務につき、弁済の責を負わなければならないのであるが、原告が被告第一化成に対し売掛金五〇二、八一〇円、営業資金としての貸金二〇〇、〇〇〇円を有していたことは争いがないから、被告第一化成工業も亦その弁済の責に任ずべきである。

よつて、被告らは各自原告に対し右金員及び訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四一年一二月二七日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤宏)

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